ディレクター くにときの コラム途中下車の旅 第2回 高円寺に途中下車

2012.02.11

ディレクターくにときの「コラム途中下車の旅・高円寺」

桜井鈴茂

 小説家の桜井鈴茂さんをゲストに迎えた今回は古着屋やライヴハウス、レコード店などが点在し、中央線でも独特の文化を持つ高円寺に途中下車。鈴茂さんに作家の仕事や町との関わり方などについて語ってもらいました。鈴茂さんとディレクターの國時は共通の友人を介して数年前に知り合ったという 間柄。何度か飲んだことがある2人の対談はとても熱を帯びて濃い内容のものとなりました。

 お店に入ってビールを注文すると、鈴茂さんはタバコの葉とペーパーを取り出し、無造作に巻きタバコを作りながら話し始めました。小説家という特殊な仕事をしている鈴茂さんですが、今の仕事を目指していたわけではありません。若い頃、夢中になっていたのは音楽でした。中学、高校の時にバンドを組み、ベースを弾いていたものの、上達せずにバンドを諦めた鈴茂さん。そして大学1、2の頃、音楽と文章を書くことが好きだったこともあり、音楽ライターになりたいとぼんやり将来のことを考えていたそうです。それがひょんなことからヴォーカルとしてバンド活動を再開したのは21歳の頃。それは周りが就職活動に備えてバンドを辞める時期でした。

俺の周りには怒る女の子が多かった(笑)

國時「きっかけは何だったんですか?」

鈴茂「大学2年と3年の間の春休みにロンドンとパリに行ったのね。初めての長い1人旅、かつ初めての海外で、ロンドンに2週間、パリに2週間。で、ロンドンのカムデンロック・マーケットでナンパした日本人の女の子と仲良くなって、その晩から毎晩ライヴハウスに一緒に行ったの。夕方に待ち合わせて晩ご飯を食べてライヴハウスに行ってお酒飲みながら音楽を楽しんで……みたいなのを4日連チャンくらい。向こうはライダースジャケットにDr.マーチンのブーツを履いた1つ上の大学生で、最後の日に自然と将来の話になった。『ロッキング・オンとかのライターになりたいと思ってんだよね』って俺が話したら、その子が急に目くじら立てて『アンタさ、何で音楽がそんなに好きで音楽ライターになろうと思うわけ? 音楽が好きなんだったら自分でやればいいじゃん。なんか考え方が捻れてない?』って怒るように言ってきて。『でもさ、楽器下手だし…』とか言うと『じゃあ歌えば良いじゃん。文章も好きなんでしょ? 歌詞書いて歌えば良いじゃん』って。俺、その子に恋心を抱いていたから、その晩は告白してあわよくば……くらいな勢いだったのに、そうやって説教されてしまって(笑)。でも、本当にそうだよなと思った」

國時「そんなことがあったんですね」

鈴茂「もう1つ。高校1年の時に、一緒にバンドをやっていた女の子が現役で合格した某有名国立大学を半年で退学して、ロンドンに渡ってアートスクールに通ってたの。向こうで絵を描いたり彫刻を造ったりしていて。で、ロンドンでの最初の何日間かはその子のフラットに泊めてもらっていたんだけど、その時に『前から、彫刻とか美術とか好きだったっけ?』みたいな話になって。『そっちの方向で自分はやっていけるって思えたんだ?』って聞いたら、彼女はまるで俺が愚問を発したみたいに『それでやっていけるとかやっていけないとか、その発想がそもそもわからない。私にとっては何がやりたいかやりたくないか、それしか関係ない』って…。それもけっこう怒ったように言われて…。俺の周りには怒る女の子が多かった(笑)」

國時「その2人からの助言は結構大きかったんですか?」

鈴茂「大きかったよね。あの子たちのせいだよ、俺がいま貧しい生活をしているのは(笑)。さすがに40歳を越えて人生を俯瞰的に捉えてみるとさ、俺なんて明日をも知れぬ身だから、つまり、人生が丸ごとギャンブルになっちゃってるわけ。彼女たちの言っていることは正しいとは思うし、すごく格好良いと思うけど、やっぱ、欧米的な発想なんだよね。社会保障がしっかりしてたり、そうじゃなくともいくらでもやり直しがきく流動的な社会のさ。日本の社会ってもっと固定化されてるし、そもそも一本道じゃない? その道から外れると生きるか死ぬかってことになる(笑)。いや、まじで。オルタナティヴなライフスタイルっていまだ市民権を得ていないから」

TEXT:下田和孝

桜井鈴茂

1968年北海道生まれ。バイク便ライダー、郵便配達員、大学事務員、スナックのボーイ、小料理屋店長、大学院生、水道検針員など、さまざまな経歴を通過しつつ、2002年『アレルヤ』(朝日新聞社→現在は双葉文庫刊)で第13回朝日新人文学賞を受賞。ロック/ダンス・ミュージックに傾倒し、オルタナティヴなライフスタイルを模索する若者たちを、ファニーかつドライヴ感溢れる文体で綴り、一部の読者からの熱狂的な支持を得る。2005年には、六人のワケあり男女によるたった一日の群像劇『終わりまであとどれくらいだろう』(双葉文庫)、2009年には、チャールズ・ブコウスキーへのオマージュ「リンダ」や、英訳も併録された「サンドラ」を含む連作短篇集『女たち』(フォイル)、さらに2011年には、自身の経験をもとに中年にさしかかった夢追い人たちの悲哀と絶望と闘いとをドライな文体で描いた『冬の旅 Wintertime Voyage』(河出書房新社)を発表。純文学/エンタメといった既存の枠を飛び越えてアクチュアルな作品を生み出し続ける小説家の一人である。

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